山本 浩さん

法政大学 スポーツ健康学部 教授
(元NHKエグゼクティブアナウンサー)
山本 浩さん コメント ずいぶん前のことだったように記憶しています。一枚の小さなカードに、たしか青のボールペンで丸を描いていったことがありました。提供できる臓器名にしるしをつけるものでした。名刺入れに挟んだまま十年以上持ち歩いていたため、汗でインクがすっかりにじんだのが気になって、あるとき「使うこともなかったか」とゴミ箱に放り込んだことがありました。それからというもの、これがまた妙に何か足りない感じがするのです。数ヶ月後、今度は裏にドナーの意思表示を問う保険証が手に入りました。その時あわてて丸を打ったプラスチックの保険証が、今では威厳をたたえて財布の中に収まっています。
「分かちあう」。カードが伝えるのは、提供できる臓器の名称というよりもむしろ、持ち歩く人が、隣の人と人生をつなぐ意志を表明したメッセージに他ならないのです。